マルチファインアイAI活用の道路点検で人手不足を解消、テクノロジーで道路を守る

技術研究所所長 田口 仁
安全な路面状況を維持し、事故や大きな破損の予防に必要なのが、道路点検です。しかし、予算不足と効率的な維持管理計画の道筋が立てられないため、道路点検まで手が行き届いていないのが現実です。
そんな現状を解決するために、福田道路は「AIによる道路点検システム・マルチファインアイ」を開発。技術研究所所長 田口 仁さんに、開発経緯や特徴、今後の展望など、さまざまなお話を伺いました。

AI活用、動画撮影による舗装破損の診断システム

ビデオカメラを設置した実際の車両

マルチファインアイは、AIを活用した、舗装破損の診断システムです。一般的な自動車に市販のカメラを搭載し、路面の様子を動画で撮影することで、動画を基にAIが路面の破損状況を診断します。

道路点検を行うにしても、建築・土木業界には、次のような課題があります。

道路点検に割ける時間・人材・予算が足りず、目先の仕事に追われてしまうという状況は、発注者も受注者も身に覚えがあるのではないでしょうか。これらを解決するために、マルチファインアイの開発がはじまりました。

膨大な学習を必要とする「ディープラーニング」

AIといっても、人と同じように仕事を教える必要があります。マルチファインアイには、舗装の破損状況を正しく判定するために、ディープラーニング(深層学習)というテクノロジーを活用しました。

人工知能(AI)による解析イメージ図

ディープラーニングでは、路面の破損状況を正しく判定するために必要なデータを、AIにインプットしなければなりません。「破損している路面」の画像データをAIに取り込み、「破損している道路は、このような見た目をしている」と覚えさせるのです。機械であるAIは、人のように「何となくニュアンスで判断する」ことができず、学習に膨大なデータを必要とします。例えば、同じひび割れでも、その破損度はさまざま。10%・20%・30%・40%… というように、破損度別の画像データを用意しなくてはなりません。

ひとつの破損度につき、500~1,000枚レベルでデータが必要。総量は相当なものになります。しかも、破損度の高い画像データは、なかなか手に入りません。少し考えてみれば、当然です。軽微なひび割れなら放置してもさほど問題にならないかもしれませんが、重度な破損を放置しては、すぐさま事故に繋がってしまいます。

「破損度が大きくなればなるほど、すぐに補修されてしまい、画像データが手に入らない」 私たちの仕事も道路の破損を直し、交通の安全を守ることです。しかし、道路点検を効率化し、より安全な「道路の未来」をつくるために、道路の破損データが欲しい… 開発が進むほど、このパラドックスに悩まされることは多くなっていきました。

AIといえど、人と同じようにしか道路を見られない

完成後も、課題は山積みです。AIも路面撮影用のカメラも、結局は人と同じようにしか、路面を見られません。例えば、路面が雨に濡れて、光の反射が強かったとしましょう。轍であれば、浅いものを上の方から見たとします。

あなたは、もしくは貴社の技術者は、どのレベルの「悪条件」までであれば、正しく路面状況を判定できるでしょうか。AIも同じです。天候や時間帯、路面撮影の角度など、「正確な道路点検を行うための気配り」は欠かせないのです。

判定精度を高めるには、人による学習サポートが必須

「AIは自力で学習するから、使えば使うほど判定精度も高くなるのでは?」と、思われる方もいるでしょう。しかし、「AIが勝手に賢くなる」ことはありません。判定精度を高めるためには、新しくデータを集め、インプットする必要があります。いわば、AIの再学習が必要なのです。

しかも、再学習をしても精度が高まるとは限りません。精度を高めるには、AIにインプット済みのものとは異なる「良質なデータ」が必要。質の低いデータを使った再学習には、意味がないのです。学習にしても、実用時の路面撮影にしても、AIの精度を高めるには人が手をかけてやらねばなりません。

マルチファインアイは、今後も進化を続けていく

閲覧アプリによる判定結果

「AIの活用には課題も多く残っていますが、マルチファインアイそのものは、道路点検の効率化に必ず繋がりますよ」と、田口さんはいいます。「逆光や撮影角度への配慮は人による点検でも必要ですし、精度を高めていくのは私の仕事ですから」そう話す彼を見ていると、マルチファインアイは今後も進化を続けていくのだろうという、確信が得られました。

マルチファインアイで行った道路点検のデータは、データ閲覧用のアプリケーション内で、地図情報と結び付けられます。判定結果を「損傷度+写真+地図」の状態で可視化、確認できるため、データ活用にかかる労力も減らせるのです。修繕計画の策定ツールとして、すでに実用もはじまっています。

マルチファインアイが、「国土技術開発賞」と「インフラメンテナンス賞」を受賞するという、嬉しい出来事もありました。「i-Construction」に率先して取り組み、業界をより良くしていきたい福田道路にとって、これは大変名誉な出来事でした。

ちなみに、田口さんに受賞のときの気持ちを聞いてみると、「達成感のようなものは、あまりなかったんですよね。さらにいくつもの調査で実際に使ってみる必要があるとの焦りと、もっと精度を高めていくにはどうしたら良いかという課題感で、気持ちがいっぱいだったのかもしれません」とのこと。どうやら、マルチファインアイの開発・改善は、今後も順調に続いていきそうです。

※役職・内容は2020年10月取材当時のものです。

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