おとなしくん

現場に響く「怒鳴り声」をなくす、無音誘導システム・おとなしくん

事業本部 機械センター所長 羽田 誠治
工事現場には、「重機の騒音によって、人の声が聞こえない」という問題がありました。特にアスファルトフィニッシャのオペレーターがダンプトラックの運転者に指示を出すには、騒音に負けないよう声を張り上げたり、クラクションで指示をださなければならない。そんな問題を解決するため、福田道路が開発した工事車両無音誘導システム「おとなしくん」。事業本部 機械センター所長 羽田 誠治さんに、開発経緯や特徴、今後の展望など、さまざまなお話を伺いました。

夜間工事を少しでも静かに

「なぜ、車両誘導システムが、騒音解消に繋がるのか」と、疑問に思われる方も多いでしょう。そこには、現場経験者だからこそわかる、工事現場特有の問題があります。多くの重機が行き交う工事現場には、機械の駆動音や作業音といった、さまざまな種類の「音」があふれています。これらの「音」は、近隣住民にとってはまさに騒音です。しかし、騒音に悩まされているのは近隣住民だけではありません。重機を動かし、「音」を出している張本人である「作業員」もまた、騒音に悩まされているのです。

作業員たちは、さまざまな音が飛び交う工事現場のただ中にいます。つまり、彼らの耳は常に騒音にさらされているのです。そんな状況で、オペレーターの出す指示が、重機の運転者に伝わるでしょうか。伝わるはずがありません。騒音に負けないようにと、オペレーターは「大きな声」で指示を出すほかないのです。この、いわば「怒鳴り声」ともいえる騒音をなくすために、「おとなしくん」の開発ははじまりました。

どの業者でも使えるようにと、FM音声を活用

「おとなしくん」による指示伝達は、「FM音声」を通して行われます。「FM音声」とは、多くのドライバーが毎日耳にする「FMラジオ」の電波に乗せた音声のこと。つまり、「おとなしくん」による指示伝達で、オペレーターと運転者は意思疎通を図ることができるのです。

FM音声を活用したのは、「どの車両にもラジオはついているから」です。工事現場では、あらゆる業者が集まって作業をします。1つの現場を終えて、次の現場にいけば、全く違う相手と一緒に仕事をしなければなりません。そんな中、特別な機器を必要とするシステムを、気軽に使えるでしょうか。どんな車にもついているラジオを活用すれば、どの業者と作業をするときも使えます。仮に、車載ラジオが故障していたとしても、携帯ラジオなら難なく貸し出せます。

音声とパネル表示、二重の伝達

「おとなしくん」は、「人の声に近く、聞き取りやすい音声」と「明るく見やすい高輝度フルカラーパネル」、2つの方法でオペレーターの指示を運転者に伝えます。音声には、HOYA製の最新型音声合成ソフト「Voice Text」から、騒音の中でも聞き取りやすい女性の声を採用。

さらに、音声と同じ連動したアニメーションを、高輝度フルカラーパネルに表示します。視覚的にも、指示が届くようにしています。
なお、パネルにアニメーションを表示するのは、高輝度LED。日中の視認性を高めるための配慮です。

合成音声とマイコンにより、自由なパターン設定を実現

「なぜ、録音音声ではなく、合成音声を採用したのですか?」と、聞かれることがあります。人がオペレーションする音声を録音して、それを流せばいいのではないか、という疑問です。合成音声を採用した理由は、指示内容を自由に設定できるようにするため。

録音音声では、新しい指示が必要になるたびに、オペレーション音声を録音しなければなりません。しかし、合成音声ならPCを使って、新しい音声を手軽に作成できます。また、パネルにはマイコンを内蔵し、新しいアニメーションも自由に作成できるようにしています。
いくら音声が自由に作れても、それに連動するアニメーションに制限があれば、オペレーターと運転者の意思疎通は不自由なものとなるでしょう。

パネルにマイコンを内蔵させることで、PCで別途アニメーションを作成し、入れ替えられるようにしました。もちろん、ミラー越しでも見やすいように、左右反転表示も可能です。

自らの悩みから開発した「おとなしくん」で、気持ちよく働ける環境をつくりたい

かつては夜間現場での作業も多かったという羽田さん。今回紹介した「おとなしくん」は、彼の作業員としての経験から生まれたシステムです。

「ただでさえ、工事現場は重機の音でうるさいんです。だから、オペレーターも指示をだすときは、声を張り上げないといけない。指示を出したいだけなのに、怒鳴っているような声になってしまうんです」当時を思い返しながら、羽田さんはいいます。

「でも、怒鳴られて良い気がする人はいません。怒鳴っていると思われる方も嫌です。指示を出すだけで、空気がギスギスしちゃうなんて、悲しいじゃないですか」そんな当時の経験と想いからうまれた「おとなしくん」。羽田さんの話を聞いていて、近隣住民だけでなく現場作業員にも配慮した、心配りあふれるシステムなのだと実感できました。

「おとなしくん」は、工事で発生する騒音から、近隣住民と作業員の双方を守ってくれるシステムといえます。私たちは、このシステムが工事現場の課題を解決し、社会の未来を少し良くしてくれると信じています。

※役職・内容は2020年10月取材当時のものです。

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