ヒートドレッシングJr

路面の割れを効率的に補修し、すべての人にとって安全な道路を守る

事業本部 機械センター課長代理 稲生 慎
路面の部分的なひび割れやクラックには「加熱補修」が有効ですが、軽微な割れは路面のいたるところで発生するもの。すべてを補修するには、多くの時間と労力がかかります。そんな課題を解決するため、福田道路が開発したのがヒートドレッシングJr。事業本部 機械センター課長代理 稲生 慎さんに、その特徴や開発の経緯・想いなど、さまざまなお話を伺いました。

路面を再生する「ヒートドレッシング」を、もっと手軽に

ヒートドレッシングJrは、路面の「軽微な割れ」を、手軽かつ綺麗に補修できる専用技術です。「ヒートドレッシングJrというからには、親とでもいうべき技術があるのでは」と、思われた方も多いでしょう。まずは、基となる「ヒートドレッシング工法」について、簡単にお伝えします。

ヒートドレッシング工法は、リミキサと呼ばれる重機を用いて、傷み劣化した路面を綺麗な状態に再生する工法です。古くなった路面をかきほぐし、削り取った旧材に新しい合材を混ぜ、その場で路面を舗装しなおします。旧材を活用することでコストを抑えながら、すぐに補修を終わらせられるのが、ヒートドレッシング工法の強みです。

この工法の子どもともいうべき、ヒートドレッシングJr。路面全体を再生させるヒートドレッシングに対して、Jrは軽微なひび割れの補修、部分的な補修に活用します。

路面の割れを、コストを抑えてその場で補修

では、ヒートドレッシングJrの具体的な説明に移りましょう。路面の「ひび割れ」や「クラック」に対する加熱補修を、より効率的に、綺麗な仕上がりにできないかと考え、ヒートドレッシングJrはうまれました。

まずは、ヒートドレッシングJr側部についている、縦長の部品をご覧ください。これは路面を加熱し、やわらかくするための「赤外線ヒーター」です。

ヒーターで路面をやわらかくしたら、後方の「かきほぐしピン(先端を鋭利にしたピン)」で、路面をかきほぐしていきます。ひび割れやクラック周囲の舗装ごと、削り、かきほぐしていくのがポイント。「割れ周囲の旧材」を一度削り、割れの中に落としていきます。削った古い合材がたまった割れの中に、新しい合材を流しながら、かきほぐしを継続。すると、割れの中で新旧の合材が混ざり、「混合材」が出来上がります。旧材を再生することで、新しい合材の量を抑え、低コストで割れを補修できるのです。

割れを混合材で埋めたら、スクリードで敷き均します。仕上げに、人の手で端部を整えることで、補修部分とそれ以外の部分の凹凸をなくします。

古くなった切削機を有効活用

実は、ヒートドレッシングJrは古くなった切削機を使って、手作りした機械です。加熱補修という工法自体は、ヒートドレッシングJrの開発以前からあるものでしたが、人の手による作業のため時間と手間がかかります。また、長距離にわたってひび割れやクラックが発生している路面もあります。長い割れを人の手だけで補修すると、補修部分はどうしても「ジグザグ」になり、綺麗とはいえません。

加熱補修の専用機を作ることで、

  1. 路面の加熱
  2. 割れ周囲のかきほぐし
  3. 合材による補修
  4. スクリードによる敷き均し

これだけの作業をひとつにまとめ、効率化できるのではないかと考えたのです。それに、「長い割れを真っ直ぐに補修する」施工は、人よりも機械が勝ります。

反対に、「補修部分を目視で確認し、細かな凹凸をなくす」という緻密な作業は、機械よりも人が優れています。機械と人、それぞれの特性を活かし、作業を分担することで、効率的で綺麗な加熱補修を実現しました。

試行錯誤の末にうまれた、独自のかきほぐしピン

ヒートドレッシングJrの作成時、特にこだわったのが、かきほぐしピンです。路面の割れと一口にいっても、その形はさまざまです。割れの内側は決して平坦ではなく、割れの断面図を描き起こせば、まるで棒グラフのようにジグザグになっています。どんな形状のピットであっても、割れの深い部分にも浅い部分にも均一に届くということは、決してありません。考え抜いた末、思いついたのが「バネを使ったかきほぐしピン」です。バネを使えば、一本一本のピットが割れ内部の高さに合わせ、長く出たり短く引っ込んだりすると考えたのです。

しかし、単純にバネを使えば良いというわけではありません。バネの力が強すぎればピットが引っ込まず、弱すぎてもかきほぐす力が足りなくなってしまいます。何度も試作を重ね、最適な力のバネを完成させたときは、「あぁ、これでようやく実用化できる…」と、達成感というよりは放心に近い気持ちを感じました。

誰もが安全に使える道路を目指して

「機械は人に楽をさせるためにある」と、稲生さんはいいます。ヒートドレッシングJrからも、作業員の負担をなるべく減らし、効率化を図れるようにという心配りが見て取れます。しかし、この機械がうまれたそもそものきっかけは、南魚沼のロードレースにあるといいます。タイヤの細いロードバイク(競技用自転車)に乗って、その速さを競うロードレース。
自転車にとっては、路面のちょっとした段差も、転倒に繋がる脅威です。路面の割れや側溝付近の段差に沿って自転車を漕いで、タイヤを取られて転びそうになった。自転車によく乗る方なら、そんな経験もあるのではないでしょうか。

南魚沼のロードレースは、普段は大型車の行き交う山道で行われます。そこには、たくさんのひび割れやクラックがあります。軽微なひび割れも自転車の転倒に繋がるため、より多くの割れを効率的かつ綺麗に補修できる技術が必要でした。私たちは、このヒートドレッシングJrを使って、すべての人にとって安全な道路を作りたいと考えています。車だけでなく、自転車や歩行者も安心して使える道路を守る。それが私たちの使命です。

※役職・内容は2020年10月取材当時のものです。

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